以前用水路だったところに蓋をして、ひとひとりが通れる道のようにしたところを歩くのがすきだ。
家々の裏側、確かに道ではあるけど、誰かの秘密を読んでいるような気持ちになるので、なんとなくひっそりと静かに歩く。
くねくねとカーブしながらつづく道に時折り光がさしこむ。
また飲みに行こうね。
たのしかったです。出会えて良かった。
また飲みながらどうでもいい話したいです。
うん、いつでも連絡してね。
この夏は忙しかった。5月くらいから徐々にカレンダーに隙間がなくなっていく。
この月は前の月よりも、次の月はこの月よりも、予定の多くが仕事に染まっていく。
今年の夏こそは海に何度か行きたいという想いは実現できないまま、キンモクセイの香りが充満した空気を見つめる。
他にも友だちが住む森戸海岸にあそびにいく時、だめもとで連絡してみよう。
またいっしょに飲みたいから。
今年は行けんかったな。。来年かな。
来年は、なくなってしまった。
用水路の道の脇にはいろんな植物が生えている。
廃屋のような木造の建物もある。そこにときどき猫がいる。「次郎」のふだを提げた猫。
湿気は多いけど、久々の晴れ間。あたたかい空気。
夏のあいだ、地面のブロックの隙間からにょきにょき伸びていた野花は、もう見当たらない。
遠くから聞こえる子どもの声。
いつのまにかなくなった建物。
いない猫。
平和な日差し。
もう会えない笑顔。
もう会えない。
まだ信じられない。
あたしの記憶の中のあの笑顔はまだあんなに近くて、やさしいのに。